理論と理想と現実のあいだで
―それでも、今日も子どもは育っています― 子育てをしていると、「こうするとよい」「こんな関わりが大切」といった、さまざまな情報に出会います。 子どもの話をしっかり聞きましょう。感情を受け止めましょう。たくさん褒めましょう。自己肯定感を育てま...
―子どもの尊厳と、信頼の中で育つもの―
近年、幼稚園や保育園でも、写真や動画、日々の細かな報告などを通して、「保育の見える化」が進んでいます。園での様子を知ることができることは、保護者の皆さまにとって大きな安心につながりますし、私たちも、子どもたちの成長を一緒に喜び合えることを嬉しく思っています。
その一方で、少し立ち止まって考えてみたいことがあります。
それは、「見えること」が増えるほど、本当に安心が増えるのか、ということです。
子どもたちは、毎日さまざまな気持ちを経験しながら過ごしています。嬉しいこともあれば、悔しいこともあります。友だちとぶつかることもあれば、ひとりで静かに考えている時間もあります。失敗することも、泣くこともあります。
そうした姿は、どれも子どもにとって大切な時間です。
すべてを記録し、すべてを伝えることが、必ずしも子どもの育ちにとって最善とは限りません。
大人にずっと見られていることを意識しすぎると、子どもは「どう見られているか」を気にするようになることがあります。本来は安心して失敗できるはずの場所が、「ちゃんとしなければ」と感じる場になってしまうこともあります。
また、保護者にとっても、情報が多ければ多いほど安心できるとは限りません。見えることで気になることが増えたり、「今日はこんなことをしたんだね」と確認して終わってしまったりして、子ども自身の言葉をゆっくり聞く機会が減ってしまうこともあります。
本当に大切なのは、「何をしたか」をすべて知ることではなく、
「今日も安心して過ごせたんだな」と信じられることではないでしょうか。
子どもが自分の言葉で「今日はね…」と話し始めること。
親が「そうだったんだね」と耳を傾けること。
その何気ないやりとりの中に、親子の信頼と対話が育っていきます。
そして、保護者の皆さまにとっても、「見えない時間を信じる」という経験は、とても大切です。
子どもの自立には、子ども自身の成長だけでなく、大人が「大丈夫」と信じて見守る力も必要です。すべてを確認しなくても、子どもはちゃんと育っていきます。すべてを知っていなくても、子どもは園の中で多くのことを感じ、学び、成長しています。
それは同時に、保護者自身の自立にもつながっていきます。
子どもを愛しているからこそ、すべてを知りたくなることがあります。心配になることもあります。それは自然なことです。
けれども、少しずつ「見えない時間も大丈夫」と信じられるようになることは、親にとっての“子離れ”の第一歩でもあります。
子どもを手放すということではありません。
子どもの力を信じ、安心して送り出すこと。
そして、「この子は大丈夫」と静かに見守ること。
その積み重ねの中で、子どもだけでなく、親自身も少しずつ成長していきます。
保育の本当の価値は、写真や動画だけでは伝えきれません。
友だちにそっと手を差し伸べたこと。
悔しさをこらえてもう一度挑戦したこと。
言葉にできない気持ちと向き合ったこと。
そうした目に見えにくい心の育ちこそが、幼児期に最も大切な学びです。
私たちは、子どもたちの姿を必要な形でお伝えしながらも、同時に、子どもの尊厳と安心できる環境を何より大切にしたいと考えています。
「すべてを見えるようにすること」よりも、
「見えない時間の中で、子どもが安心して育っていること」
そして、「監視」ではなく「信頼」でつながること。
その積み重ねの中で、子どもも、保護者も、少しずつ自立していきます。
見えるものだけが、育ちではありません。
見えないところで育っているものを信じられること。
それこそが、子育ての中で得られる、かけがえのない安心なのだと思います。
Related Articles
―それでも、今日も子どもは育っています― 子育てをしていると、「こうするとよい」「こんな関わりが大切」といった、さまざまな情報に出会います。 子どもの話をしっかり聞きましょう。感情を受け止めましょう。たくさん褒めましょう。自己肯定感を育てま...
―“生きる力”を育むために― 少子化や共働き家庭の増加により、子どもを取り巻く環境や園の選び方にも変化が見られます。便利さや多様な活動が求められる時代だからこそ、あらためて「幼児教育の本質」とは何かを考える必要があるのではないでしょうか。 ...